WETな備忘録

できなかったときの自分を忘れないように

【追悼】いのち短し、恋せよ乙女

なぜだかわからないが、その日は雨が降るなんてこれっぽっちも考えてなかったので、朝起きてえらく驚いた。強めの雨が静かに、あれはさめざめと、降っていたのだった。

その人の訃報を聞いたのは、昼過ぎだった。入院したとは聞いていたが、つい最近まで元気に仕事をしていたように思う。僕たちにとっては突然すぎる別れだ。

当然のようにまた「いつかは」の冗談を飛ばし、その「いつかは」がきっと成就するものだと僕たちはあたりまえに思っていた。

その「いつかは」の結末を僕たちに見せずに、彼女は逝った。多くの人を楽しませ、元気づけ、多くの人に愛された人の未来がこんなにも容赦無く取り上げられてしまう理不尽に、文字通り遣る瀬の無い思いがただただ溜まっていく。

死は誰にも平等に理不尽で、平等に唐突なのだと、改めて知った。だが、だとしても、これはあまりにもあまりにもつらい死だ。赤の他人の死がこんなにつらいとは思っていなかった。

何が「ありがとうございました」だ。「ありがとう」と言いたかったのはこっちの方だ。しかしそれはもう届かない。

夕方には雨はすっかり止んで、街は火曜日へ備えていた。世界はそのように進んでいく。

僕は、傘をさして帰ろう。


いのち短し 恋せよ乙女
あかき唇 あせぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に
明日の月日は ないものを